「ものづくりの現場」を訪ねる小さな見学会


手仕事の舞台裏。

冬の凛とした空気が流れる1月の下旬。
群馬県桐生市にある私たちの縫製工場に、大切なお客様をお迎えしました。
2回に分けての開催で、8名のお客様にご参加いただき行われた工場見学会と座談会。
そこには、私たちが日々向き合っている「ものづくり」へのこだわりと、それを受け取ってくださる方々の熱い想いが交差する、かけがえのない時間がありました。

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01|生地の裁断

– 職人の手と、最新の技術が溶け合う場所 –

作務衣づくりは、一反の布を広げるところから始まります。

幾重にも重なった生地は、想像以上に重く、人の手だけで扱うには大きな力が必要です。
機械から、エアホッケーのように噴出する空気の力を使って布を浮かせ、人の目と手も使いながら、丁寧に整えていきます。

裁断は、生地の特徴ごとに緻密に設計された正確なデータをもとに行われます。
一着分のパーツを無駄なく配置し、30枚ほど重ねた生地を一気に裁断します。
それでも、最終確認は必ず人の目で。
天井から生地に投影された線を見つめ、「ここで大丈夫」と判断してから、ようやく作業が進みます。

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和装ならではのシルエットを守る「肩はぎをしない」和粋庵の背縫い製法。特徴的な、前身頃と後ろ身頃の大きなパーツを紹介しました。

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02|パーツ準備

– 美しい仕上がりを支える基礎作り –

続いて、パーツ作りのフロアへ。
実際に紐を縫う様子を見学していただきました。

紐作りにおいて「1〜2mmの差」が仕上がりを左右するという説明で、
「(紐はよく使う部分なので)ある意味、ちょっと寄れても気になるからすごく大切な作業ですよね、これ。」と、作り手のこだわりに深く共感してくださる声もございました。

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03|縫製

– 静かな熱気が漂う、組み立てのフロア –

次に向かったのは、パーツや身頃を縫い合わせるメインの縫製フロアです。ここでは、効率と美しさを両立させるための、独自の工夫を感じていただきました。

アイロン担当とミシン担当がペアを組んで作業を進めていきます。互いの進捗を確認しながら、流れるように枚数を仕上げていく作業。その阿吽の呼吸とも言える連携からは、長年培われてきた職人同士の信頼関係が伝わってくるようでした。

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組み立ての工程が進むなかで、和粋庵が特に大切にしている技法の一つに「落としミシン」があります。
よく「衿(えり)を正す」と言いますが、着姿の印象を最も左右するのは、やはりこの衿元の美しさ。そこには、衿の境目に正確に針を落とすことで、表側から縫い目を見えなくする特殊な技術が隠されています。
仕上がりの品格を左右するこの繊細な工程に、お客様も深く見入っていらっしゃいました。

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04|タコ糸甚平

– 風の通り道を作る、伝統の「タコ糸手縫い」-

1階のフロアでは、夏用の甚平に欠かせない、伝統的な仕立ての様子をご覧いただきました。
甚平の大きな特徴である、袖と身頃を繋ぐ「タコ糸」の縫製。
熟練の職人が一針ずつ等間隔に縫い進めていきます。この涼しげな隙間を作る技法が、甚平特有の風通しの良さを生み出すのです。

下書きなどの目印が一切ない中で、寸分違わぬ間隔で針を運ぶ職人の指先。
お客様があまりに熱心に見つめていらっしゃるので、専務から「(職人が)緊張しちゃうから」と、場を和ませる言葉が漏れるほど。
その場の空気には、技術への純粋な敬意が漂っていました。

また、こうした長年の勘に頼る技術を、若い世代へと繋いでいくための手順書や練習用サンプルも特別に公開されました。伝統をただ守るだけでなく、未来へと繋ぐための確かな挑戦が、そこにはありました。

05|仕上げ・検品

– 確かな品質を磨く循環 –

最後に向かったのは、製品を完成へと導く仕上げ・検品のフロアです。
ポケットの強度を高める「閂(かん)止め」や「ボタンホール開け」など、専用ミシンによる高速処理が実演されました。
わずか一秒足らずで縫い上がるそのスピードに、驚きの声が上がります。しかし、その速さの裏には「一度刃を入れれば修正がきかない」という、失敗の許されない緊張感もありました。

「検品」では全製品の縫い目を、隅々まで目視で確認していきます。
ここで見つかった僅かな不良は、翌日にはすぐさま縫製担当者へと現物でフィードバックされます。
この循環こそが、入社間もない若手職人たちの成長を支え、「昨日より今日、今日より明日へ」小さな改善を日々積み重ねながら、和粋庵の品質をより確かなものにしています。
その真摯な姿勢に、見学されていたお客様も深く感銘を受けていらっしゃいました。

結びに代えて

今回の工場見学会を通じて、私たちが本当にお伝えしたかったこと。
それは、なにか特別な魔法のような技術があるということよりも、
当たり前の工程を、当たり前に、そして実直に積み重ねているという日常の風景です。

皆様が前のめりになり、時には感嘆の声を漏らしながら見つめてくださったあの時間は、私たち作り手にとっても、自らの仕事の意味を再確認する大切なひとときとなりました。

新しく手にした一着に袖を通したとき。
ふと「楽だな」「落ち着くな」と感じていただけたなら、その心地よさの裏側には、この日ご覧いただいた、あの静かな工場の景色が繋がっています。