刺子織(さしこおり)
ここのところ急に寒くなってきましたので、自宅で「太刺子作務衣」を着ることが増えました。どっしりと頼もしい厚みとしなやかで優しい着心地、そして安心の暖かさが同時に味わえるこちらは、和粋庵の冬を代表する一着です。
2020年秋冬の新作として、この太刺子生地を使用した「ジャケット」や「頭陀袋」が登場しました。作務衣と共布で幅広く商品展開が行われるのは、”人気の証”。それではそもそも「刺子(刺し子)」とは何か?というお話をさせていただきます。
『刺子について』
刺子(刺し子)とは、日本に古くからある伝統手芸です。衣服の補強や保温に加えて豊作・魔よけ・商売繁盛といった人々の願いや祈りを込めた装飾のために、重ねた布を手で刺し縫いしたのが始まりと言われています。古くからというのは、調べによると16世紀初めの頃で、特に東北地方に伝わる刺子が広く知られています。
青森県津軽地方の「こぎん刺し」、青森県南部地方の「菱刺し」、山形県の「庄内刺子」は日本三大刺子と呼ばれるほどですので、どこかで目にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
こぎん刺しの図柄例です。津軽地方では野良着のことを「こぎん」と呼んでいたため、この名前がつきました。本来、伝統的なこぎん刺しは「藍染の麻布に白い木綿糸」が特徴です。
その土地で唯一自給自足ができた、”麻”でしか衣類を賄うことができなかった農民が、織った麻布にさらに麻糸を規則的に刺して耐久性や保温性を図る工夫から始まったものだといわれています。(庄内刺子については、日本海を通じて京都や大阪の物資の流通があったことから、都の古着や古布を材料としていたようです)
この技法は、江戸時代には火消しの消防服に用いられ、現代でも柔道・剣道などの武道着に使用されています。また、趣味の分野でもさまざまな布や糸が使われ、図柄も増えてきています。ミシンを使わず手作業で地道にちくちく刺し進めていくその時間そのものが、気分転換と喜びにつながり人気なのだとか。
『手作業→機械化=刺子織』
そんな刺子は、時代の流れとともに手作業から機械化されるようになり、刺子の模様が出るように織った綿織物が開発されました。これが「刺子織」です。ゆっくり時間をかけて丁寧に織られたその生地は、平織には無い高級感のある美しい陰影を作り出します。
上の写真は冒頭で話題にあげた「太刺子」の生地です。和粋庵の刺子織製品に使われている生地のほとんどは、「遠州(現在の静岡県西部)」で織られています。
もともと浜松を中心とした遠州地方では、その風土を活かし、江戸時代の頃から綿織物が発達したといわれています。泉州・三河と並び”日本三大綿織物産地”に数えられる遠州で、昔ながらの織機で織られるテキスタイルは、他にはない優しい質感と、使うほどになじむ独特の風合いを持った仕上がりです。
余談ですが、二輪・四輪自動車メーカーの「トヨタ」「ホンダ」「スズキ」といった今や名だたる世界的メーカーも、遠州がものづくりの原点です。ひとつの地域にこれだけの大企業がうまれるという、そのパワーの秘密が気になるところ。。。
和粋庵で販売している刺子織が用いられた商品は、作務衣・羽織・はんてん・袋物・帽子など、多岐にわたり、歴史と伝統を紡ぐ日本の職人が、一点一点丁寧に細やかな気遣いをもって仕上げています。今回ご紹介した「太刺子」以外にも特徴的な織物を使ったものがございますので、ぜひご確認ください。