贈り物と刺繍のこと【其の二】


さて、前回の記事に続き、「贈り物と刺繍のこと」 第2回目の更新となる今回は、刺繍の内容について、実例を挙げながら触れていきたいと思います。

まずは、前回に引き続き『簡単名入れ刺繍』で多くあるご注文から。

こちらの場合は、入れる文字の大きさ/書体/位置がそれぞれ決まっている刺繍になりますので、選んでいただくのは、入れる内容と糸の色だけです。しかし、たったこれだけでも、色々なバリエーションがあります。

簡単名入れ刺繍で入れられる文字は、一文字あたり約2cmで、5文字まで ですが、この文字数がポイントで、一口に「名入れ」といってもフルネームにするか、名字か名前片方にするかで、だいぶ印象が違ってきます。

フルネームだときっちりとした印象に、名字か名前片方だと、気安い印象になりますね。「みっちゃん」や「くろやん」など、ニックネームを刺繍する方もいらっしゃいます。

時には、『名入れ』の枠に捉われず、四文字熟語を刺繍することも。
「桃李成蹊」や「梵我一如」など、今まで耳にしたことも無かった言葉を、刺繍のご注文を通して勉強させてもらうことになるとは、思いもよりませんでした。

更には、糸のお色。こちらも刺繍の印象を左右する重要な要素です。よくある生地と糸のお色の組み合わせとしては、紺色と白、または紺色と金色などでしょうか。

目立たないように、あくまでさりげない刺繍が良い!という方は、同じ色の生地に、同じ色の糸でお入れする場合もあります。

「それじゃ『さりげない』どころか、生地と見分けがつかないんじゃ…?」とお考えになった方。とてもよく分かります。
私もいざご注文をいただいて、実際に刺繍をするまでそう考えていました。

ですが、いざ刺繍してみると…。

このように、良い具合の仕上がりに。

この光沢は、刺繍した部分の凹凸によって生まれているものです。
刺子織の作務衣など、刺繍する生地の質感によっては、ここまではっきり表れないものもありますが、ほとんど同化してしまって見えない…ということはまずありません。

これも、ご注文を通して教えてもらったことのひとつですね。

刺繍のご注文は、いただく度に勉強になることがあります。中にはこちらが膝を打ってしまうようなアイデアを持ち込んでくださる方もいて、そういうご注文の用途は、やはり「贈り物」が多いように感じます。
これこそ、「こだわり」の成せる業。

そして、「こだわり」の源は、「どうしたらもっと喜んでくれるだろう」という、相手の方を想う気持ちだと思うのです。

具体的に当てはめて言えば、作務衣や甚平に込めた気持ちのみならず、そこから溢れた、相手のことを思う気持ち。それが形になって刺繍になると思うと、胸が温まると同時に、身が引き締まります。

だからこそ、加工をする際は慎重に、何よりも丁寧にが合言葉です。
「この注文をくれたのはどんな方なんだろう」と、画面越しにご注文をくださったお客様の様子を思い浮かべながら、本日も加工を行っています。

今回は『簡単名入れ刺繍』のご注文を掘り下げましたが、次回はそれ以外のご注文を取り上げて、ひとまず全3回の連載を終えたいと思います。まだまだ書ききれていないことがあるので、もしかしたら番外編として更新するかもしれませんが…。

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